10年ぶりにUltima Online(ウルティマ・オンライン)にログインした話

 UOウルティマ・オンライン)と呼ばれるMMORPGは、私のネットゲーム原体験である。恐らく3年くらいのプレイ期間ではあったのだが、このゲームが自分に与えた影響はあまりにも大きい。2020年現在から数えるとおよそ10年ほどログインしていなかったのだが、偶然見かけた情報サイトによれば、現在はEndless journeyと呼ばれる無料プレイ制度が導入されており、過去にプレイしていた人々も自由にログインが出来るようになっていると言う。当時のアカウントIDなんかをギリギリ思い出しながらセットアップし、今日ついに久しぶりのログインを行った。結論から言うと、古い個人サイトのリンク集を眺めている気持ちになったのだった。
 
 UOは中世ファンタジーの世界観をベースにつくられた仮想世界で、様々な地形を持つ広大なフィールドがほとんど地続きで繋がっている。プレイヤーは徒歩や馬を利用してそのフィールドを駆けまわり、戦ったり、ものをつくったりと、それなりに自由な暮らしを楽しめる。私がプレイを始めたころはPvPサーバーとPvEサーバーが分かたれた頃で、それ以前はスリや窃盗・殺人なども横行するハードな世界であったらしい。PvP/PvEサーバー間の行き来自体は、私がプレイしていたタイミングでも可能ではあった(PvPサーバーには採集資源等にボーナスがあったり、後述する「家」を建てる土地を得るためにそちらのサーバーを選ぶプレイヤーも存在した)。
 
 街やダンジョンなどの特定の場所をのぞいて、好きな場所へ自分の家を建築できるのがUOの特徴的なシステムだ。お察しの通り、フィールドは広大とはいえプレイヤー数も多かったため「空き地」を見つけるのすら一苦労であった。そのぶん、自分の家を持てたときはなかなかに嬉しい。私の場合はたしか、すこし凶暴なモンスターが湧く沼地の脇にみつけた土地に、はじめの家を建てたのだったと思う。ダンジョンからボロボロになって帰ってきたら、家の玄関にモンスターが居座っているなんてこともあった。
 
 さて、UOの世界にはRuneと呼ばれるアイテムがある。見た目は紋様の入った小石といった所だが、これにMarkという魔法をかけると、今いる場所(座標)を記録しておける。Runeは先述した通り広大なフィールドを持つUO世界において必須のアイテムで、昨今のゲームで言う「ファストトラベル」のような機能のかわりになる。記録済みのRuneにRecallという魔法をかけると、記録しておいた座標へと瞬間移動が出来るのだ。Mark(記録)はどんな場所でも出来るため、自宅の前だったり、よく通う場所であったり、はたまた危険なダンジョンの最奥にMarkして「死にルーン」として身内での遊びに使うこともあった。
 
 Runeは用途が多いため、複数を所持することが殆どだ。そのためそれらをファイリングするための「RuneBook」というアイテムがあった。つまり、自分でつくるアドレス帳みたいなものである。そこで、ようやく冒頭の話に戻る。
 
 久々のログインにも関わらず、キャラクターの装備や持ち物は当時のままで存在した(なんとUOの持ち物は、バッグ内のドット単位の位置まで記憶されている)。先述したRuneBookも複数所持しており、用途にわけて「街」であったり「家」「店」「ダンジョン」などがある。開いてみると、当時よく通っていた店は店名も、なんとなく覚えていたり、逆に「○○'s House」とあるのに、その○○が誰なのか思い出せないこともあった。古い日記をひらいたような気持ちである。
 
 しかし、それら殆どの建物は、もうどこにも存在していなかった。UOでは月額課金が途切れると、しばらくして家が「腐る」システムになっている。なのでプレイはしないけれど、家を保たせるためだけに課金し続けているプレイヤーも、当時はかなりの数がいた。それであっても10年という年月は重い。だいたい、私だって10年前に家を腐らせているのだ。
 
 かつて便利に使わせてもらっていた店や、友達の建てた家、仲間の集まっていた集会場などに飛んでみて、そこがなにもない更地になっていた気持ちをなんと表現して良いものやらと思う。それは、ふと思い出して大昔に通っていたホームページをリンク集から辿ろうとして、リンク切れになっていたときの気持ちに近い。404 Not Foundという文字のかわりに、真っ青な草原だったり、知らない人の家だったりがあるというだけだ。
 
 というようになんだか少しさびしい再訪となってしまったのだが、10分程度のプレイ時間中でひとりだけすれ違ったプレイヤーが存在した。まったく知らない人だけど、この世界を共有している存在が自分以外にあることが少しだけ嬉しかった。加えて、当時参加していたGuildのメンバーリストを見てみると、最近であれば1ヶ月前にログインした形跡のある人も居る。どうやら当時の仲間のうち何名かは、無料プレイが始まった際に少しだけログインしてみたようだ。
 
 今、あらためて当時の仲間と一緒に遊べなくても、それは一向に構わない。ただ、あの頃の記憶を持っている人が自分以外に居るんだ、と思えるだけで、当時の自分と今の自分が地続きになったような気がして、すこしだけ温かい気持ちになれる。
 
 再度この世界で本格的に遊ぶことは無いだろうけれど、それこそアルバムを開くように、たまに遊びに行くぶんには良いかもしれない。