アサシンクリード オリジンズが興味の窓を開いた

他の追随を許さないバーチャル歴史体験ゲーム。しかしプレイフィール自体は平凡
 
 2008年から続くアサシンクリードシリーズのメインシリーズ10作目。アサシン教団と呼ばれる組織に属する(または関連する)主人公を中心に、作品ごとに十字軍遠征からロシア革命に至るまでの「歴史の変わり目」を舞台にして来た作品群だ。今作ではそのアサシン教団のルーツとなる時代、プトレマイオス朝エジプトでの戦いを体験する事となる。
 

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古代エジプトを走り回れるという事
 
 紀元前のエジプトを舞台にした高品質な3Dアクションゲームというだけでも、歴史に興味のある人間が聞けば垂涎ものであるだろう。実際、最新のグラフィックで表現される古代エジプトは見事なものであり、当時の人々の生活や、まだ崩れていない神殿、建物のありさま、使っている道具等から察せられる文明レベルなど、今まで教科書や、テレビの再現VTR等で断片的にしか見られなかったものを実際に「目の当たりに出来る」というのは、これまでに無い体験だ(開発者の歴史解釈で、という条件付きではあるが)。
 

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かつてファロス島に存在したアレクサンドリアの大灯台。現在は砦になっている

 

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何気なく転がっている小物から、当時の文明レベルを推し量る事が出来る

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特に北岸の方面はギリシャの影響が強い様子が伺える
 
 
 どうやらそういった需要は発売元のUBI SOFTも理解しているようで、今作からは「ディスカバリーツアー」と呼ばれる、戦闘等のゲーム的要素を廃した所謂「観光モード」が無料アップデートにて配信された。普段ゲームに触れていない人でも楽しめるように、という采配だ。
 

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ツアーではガイドの案内を聞きながら、実際に古代エジプトを歩き回る事が出来る

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実際の史料とあわせて観ることで、ただでさえ精巧な再現の解像度が更に増したように感じられる
 
 また、発売当初に目玉のひとつとしてアピールされていた「フォトモード」は会心の出来で、キャラクターを中心とした一定の半径内で自由なカメラワークのスクリーンショットを撮る事が可能だ。被写界深度設定やその他数種類のフィルタを使用して、簡単なレタッチも出来る。steam版の実績解除率からするとフォトモードを楽しんで居るプレイヤーは思いのほか少ないようだが、このゲームの楽しさの2割くらいはフォトモードにあると筆者は感じている。
 

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フォトモード中は時間が停止するので、一部を除いてクエスト中でも撮影が出来る
 
 
レベル制アクションゲームへの転換
 
 さて、肝心なゲームシステムの方であるが、こちらは過去作から大きく変化があった。というのも、今作の開発方針はこれまでの純粋なアクションゲームから一転「レベル制」アクションゲームへと舵を切ったのだ。
 

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エストでレベルを上げ、得られたアビリティポイントを使って技能をアンロックしていく
 
 これまでのアサシンクリードシリーズは、敵の裏をかき、様々な道具を駆使し、次々と暗殺を決めてマップを制圧していくタイプのゲームシステムであった。しかし今作はレベル制を導入し、それによって2つのポジティブ/ネガティブな影響が現れた。まずは良い影響だが、これは時間さえかけられるのであれば、プレイの敷居がやや下がったという事だ。細かなクエストをクリアしていくことでレベルを上げ、その地域の適正レベルを上回る事さえ出来れば、極端な話あまりステルスせずともガチンコバトルで拠点を制圧出来てしまったりもする。反面、こちらは悪い影響だが、それはプレイのテンポが落ちてしまった事である。
 
 例として暗殺の仕様を挙げるが、適正レベルを大きく下回った状態でミッションに挑んだ場合、これまでのシリーズでは確殺となっていた背後からのステルスアタックが、敵のHPバーの数割程度しか減らない「ただの大ダメージ攻撃」となってしまったのだ。ダメージを与えた後は「発覚」し、正面からの殴り合いが始まる。今作において過去作のようなスムーズなプレイを求める場合、ミッションごとに適正なレベルまでキャラクターを育成する必要がある。
 

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レベルのかけ離れた敵にはドクロマークが表示され、勝機は無い

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逆にキャラクターを育てすぎた場合に緊張感を保つためのレベル調整オプションも存在する
 
 この仕様を好意的に解釈するとすれば、「プレイヤースキルに自信の無い人向けの救済措置」または「これまでのマップデザイン依存のゲーム性を打破したかった」といった所だろう。しかしレベル製の導入によって変化したものは目的達成までの回り道が増えたという部分が殆どで、プレイの多様性といった面においてはあまり効果が上がっているようには思えない。さらに言えば、ゲーム内の有料オプションサービスには「タイムセーバー」と称した各種スキップ機能が存在している。これはゲーム内通貨やアビリティポイント等をリアルマネーで購入出来る仕組みなのだが、皮肉なことにタイムセーバーの存在そのものによって「レベル制の導入が単なる足かせにしかなっていないのでは」という疑念を抱かせる結果となっている。
 

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ずらりと並ぶゲーム内課金メニュー。操作ミスか仕様かは不明だが、筆者の初回プレイ時はメニュー呼び出しボタンでこの画面が表示された
 
「稼ぎ」が必要なゲーム性
 
 新しく導入されたシステムには「武器・防具のカスタマイズ」といったものも存在する。これはシリーズ従来の「武器の購入によるキャラクター強化」からはまた一歩進んだシステムで、所謂ハックアンドスラッシュ要素であったり、素材の収集要素であったりを上手く融合させた仕組みだ。
 
 クエストの攻略や「宝の地図」等のアクティビティ、また敵拠点の宝箱から得られる報酬では、ランダムな追加効果を持つ装備(所謂マジックアイテム)がドロップする仕様となっている。また、キャラクターだけではなく武器それ自体にもレベルやそれに準じた攻撃力等の数値が設定されているため、エリアを経る度にレベルの高い装備がドロップし、収集の楽しみが次々と更新されてゆく仕組みになっている。
 
 

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特殊効果はランダムで付与されているが、強力な効果ほど出にくい印象だ
 
 
 また盾以外の防具は更新する必要がなく、それぞれの部位に狩りや収集で手に入れた「素材」を投入することで、ベースステータスを強化していくといったシステムになっている。強化する部位によって、それぞれライフポイントや基礎攻撃力の底上げが出来る、といったものだ。
 
 どこかで見たようなシステムではあるのだが、実際に遊んでみるとそれなりに上手くまとまっているように感じられた。例えば、強力な武器を拾うなどして今まで使っていた武器が不要になってしまった場合、それを「分解」して素材へと還元する事が出来る。分解して得られた素材は防具の強化に流用する事が可能で、不要な武器を拾ってしまっても全くの無駄にはならないといった配慮だ。
 
 また「分解」とは逆に、気に入った武器と長く付き合っていく為の仕組みも存在する。これは鍛冶師に大金を支払う事で、武器についた特殊効果はそのままに、攻撃力の数値だけを自分のレベル準拠まで引き上げてくれるといったものだ。基本的に武器に付く追加効果というものはドロップ時にランダムで付与される仕様のため、序盤で強力な武器を拾った場合はお金をコツコツ貯めて終盤まで強化を繰り返し使い回すといったプレイが可能になる。
 
 
 このように「今ドキ」な、プレイヤーの行動がが極力無駄にならないよう丁寧に作られたシステムはたしかに存在するのだが、惜しいことに細かなほころびがありプレイのテンポが損なわれている部分があった。具体的な話になってしまうが、防具の強化に必要な「革」集めだけが他の素材と比べて著しく労力がかかり、そのためだけに各地を走り回る必要があるのだ。
 
 

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特に不足するハードレザー収集のためにワニの住む島へ来た時の様子
 
 
 ドロップ面もハクスラの楽しさを完全に移植出来ているかといえばそうではない。例えば、強力な特殊効果を持つ高レアリティ武器というものは、基本的に重要なクエストや宝の地図等のアクティビティから発生するようになっている。そしてプレイヤーが散策中によく遭遇する「敵拠点」の内部に転がっている宝箱などからは、ほぼ「それなり」のものしか出ないのだ。そういった理由もあり、中盤以降の探索へのモチベーションはかなり損なわれてしまっていた。
 
 

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宝箱からドロップするのはおおむねRareもしくはEpic程度の装備だ
 
 
無難で凡庸なアクション
 
 これまでのアサシンクリードシリーズと同様に、建物や障害物をものともせず自由に動き回れるパルクールシステムは健在だ。入り組んだ地形であっても、マップに表示される目的地マーカーへ(建物を乗り越えたりしながら)一直線へ移動出来る快適さはやはり素晴らしく、オープンワールドゲームの抱える「移動のストレス」を大きく軽減しているという点では、今でこそ当たり前になってしまった要素とはいえ重要なポイントだ。
 
 前述の通りレベル制の導入による弊害はあるものの、アクション的な意味においてのステルス派生行動自体には気になる箇所はそれほどない。アビリティの開放如何によっては行動出来る幅もどんどん広がっていく仕組みで、目新しさこそ無いが、不足も無いといった所だ。
 

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もはやステルスゲーにはお馴染みとなった、複数人の同時暗殺も可能
 
 正面きっての戦闘は、初代アサシンクリードであったような「ご都合主義」では無くなった。敵が複数であった場合は同時に攻撃してくる事もあり、バランス的にはWitcher3:Wildhuntのそれに近い。アクションゲームとしては本作の方が幾分多彩に感じられたが、出の早い通常攻撃、出の遅い崩し攻撃を使い分けながらガードや回避を駆使して戦うといった様な、ベースはあくまでよく知られている形式のTPS戦闘だ。
 
 敵の攻撃を弾いて反撃する所謂「パリィ」や通常攻撃からの派生行動も、アビリティを開放すれば使えるようになる。油壷や火矢などの地形効果を使えば(多少のレベル差であれば)格上狩りをする事も可能だ。しかしそれらが必須かと言えばそうではなく、適正レベルであれば序盤から終盤までほとんどやる事を変えずにクリア出来てしまう位のバランスだ。
 
 「大きなストレスがない」という点ではかなり好感が持てる作りになっているのだが、目新しさは殆ど無いと言って良い。しかしこれはあえてチャレンジを廃し、無難なものに仕上げた様にも見えるのだ。筆者がなぜそう感じたかと言えば、それはこのゲームの「キモ」がアクション部分には無いと思うからだ。
 
 
広大な歴史世界への入り口
 
 このゲームの「キモ」 それについては筆者が実際に体験した事柄を話そうと思う。実際のプレイを経て、ゲーム内外を問わず大きく変化したものがあった。それは「歴史」そのものへの興味だ。
 

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 正直に告白しよう。プレイ開始から30分程度、筆者は全く食指が動かずに困り果てていた。またいつものように序盤だけ触っただけで、積みゲーと化しまうのではとすら思ったのだ。そこで自身のモチベーションコントロールの一貫として、Wikipediaや個人サイトを巡り、この時代のエジプトについて軽く調べてみる事にした。
 
 誠に恥ずかしながら筆者は古代エジプトはおろか世界四大文明についても殆ど理解していない程度に浅学であったが、うっすらとした記憶の中から「エジプトはナイルのたまもの」といったワードを引っ張り出し、ネットで調べおおまかな流れを掴み、ゲーム内に登場するキャラクターの生涯についてざっくりとした知識を得ていく(この際クレオパトラプトレマイオス13世を軸にすると調べやすい)。それにより、ゲーム内では何気なく提示されるだけのキーワードにもしっかりとした背景がある事に気づいたり、その時代特有の情勢に面白みを感じたりと、むしろゲームそっちのけで1週間ほど調べ物に耽ってしまうという事が起こった。
 

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ピラミッドのスケール感や保存状態についてはデフォルメされている部分が大きい。そんな知識もゲームを経て自ら学びに行ったものだ

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「三段櫂船」を用いての海戦シーン。見た目のインパクトが強烈で、思わずどんな物なのか調べてしまう
 

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死者の書」を老人へ届ける最序盤のクエスト。興味のある方は調べてみてほしい
 
 これはあくまで筆者の場合のエピソードだ。しかしそのくらい、このゲームには「学びそのものをぶつけられる懐の深さ」が存在する。もちろん紀元前の世界の再現ではあるので、資料が極端に少ない史跡やモニュメント等は再現が適当だったりはする様なのだが、しかし、そういった相違があるという点も含めて学ぶ事が出来た。加えて、クリア後も歴史への興味は失われておらず、今ではエジプトの歴史を軸に周辺の国々への関心も芽生えてきている。暇さえあれば、興味の赴くままに調べ物をしている有様だ。
 
 
「興味」というものには、細かなシステムの不備などは全て覆い隠してくれるくらいの力がある。しかし興味をくすぐるコンテンツ制作というものは、容易ではない。「歴史」を原典とした上で、なおかつこのクォリティと再現度で世界を蘇らせた『アサシンクリード』というゲームでしか成し得なかった偉業であると思う。
 
 残念ながらゲームプレイ自体は目新しさもなく平凡だ。しかし平凡であるがゆえに大きなストレスもなく、作り込まれた世界はプレイヤーの興味を刺激する。もし歴史というものにアレルギーが無いのであれば、時間を割いて触れてみる価値はあるだろう。
 
 
 
☆水準以上のグラフィックと細やかな時代考証で再現された古代エジプトを実際に体験出来る。しかし引き伸ばしとも取れる凡庸なゲームシステムからモチベーションを奪われずに最後まで楽しむには、歴史に対する興味・教養・学ぶ意欲が少しばかり必要。そのかわり、興味を引くトリガーはふんだんに用意されている。
 
 7.5点
 
+圧倒的な表現力で蘇った古代エジプト
+ストレスの無いアクション周り
+プロモーション画像レベルのフォトモード
 
-退屈な「稼ぎ」が必要なレベル制
-良くも悪くも普通な質のローカライズ
-時間を人質に取るゲーム内課金